誘惑の延長線上、君を囲う。
陽翔君は幼い頃に見た事があるが、その時は名前も知らない。

高校一年の時、男女入り交じりの仲良し友達何人かでの帰り道の出来事。アイスを買って食べながら歩いていた時、日下部君の義理のお母さんと買い物に来ていた陽翔君に偶然に会ったのだ。日下部君は気恥しそうにしていたけれど、まだ上手く言葉が話せなかった陽翔君は『お兄ちゃ、お兄ちゃ』と呼んで懐いていた。その時まで日下部君に弟が居るなんて知らなかったし、義理のお母さんだと言う事も誰も知らず。

日下部君は、義理のお母さんが自分達よりも10歳位上の、言わばお姉さん的な存在だった事と、年の離れた小さな弟が居る事がバレるのが嫌で友達同士にも隠していた。日下部君は茶化されたりすると思っていたが、誰もそんな事はせずに陽翔君が可愛いと撫で撫でしたりして可愛いがった。それからは私達に陽翔君の事や家庭の事情を少しずつ話してくれて、私達は更に打ち解けた気がした。

幼い頃に見た陽翔君がこんなに大きくなったとはね。その下にも愛音ちゃんという妹も居たし……。時の流れと共に知らない事実も増えてくる。

「そうだ、お兄。有澄君は元気?有澄君の彼女にまたデザインを見て欲しいんだよね……」

有澄君の彼女?……だとすれば、彼女は秋葉さん?

「あー、有澄は今、忙しいみたいだな。社内で秋葉に会った時に伝えとく」

やっぱり、そうなんだ。日下部君は私の事をチラリと見たが、直ぐに目線を外した。連絡先も知っているはずだけれど、私を気付かっているのか、今ここでは連絡をしないみたいだ。
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