誘惑の延長線上、君を囲う。
「郁弥ー、おめでとう!今年のお正月は帰らないつもりだったけど、やっぱり帰って来ちゃったわよ!」

副社長と会話していたら、玄関先から急に騒がしい音がした。何だろう?と不思議に思っていたら……年配の男女がリビングに入って来た。

「こ、来ないんじゃなかったの……」

ご婦人が日下部君に向かって話をかけると、咄嗟に顔が引きつった。

「来るに決まってるじゃないの!可愛い郁弥が結婚すると聞いて、直ぐに飛んできたわよ!ねぇ、あなた」
「そうだぞ、郁弥。郁弥も家族の一員なのだから、駆けつけるのは当たり前だ!」

賑やかな方々だ。

「佐藤琴葉さんは……、貴方ですね。噂通りにお綺麗な方だ。郁弥は我が娘に似て頑固者で一度言い出したら聞かない面もありますが、根は素直で他人思いの頑張り屋です。どうか墓場まで見捨てずに一緒にいてやって下さい」
「まぁ、何なのかしらね?その挨拶は。二人は好きで一緒になるのよ、一生を添い遂げる覚悟があるから結婚するんじゃないの。まぁ、そうならなかったのがうちの娘だけれども……。佐藤さんは高校時代からの友人よね?学生の頃から郁弥を見てきた人だもの。きっと、この結婚は上手くいくわよ」

挨拶をしようと思っているのだが、なかなか入れる隙が見つからずに困った。この方々は副社長と日下部君の祖父母らしい。ご夫婦の会話が面白くて、私は思わず笑ってしまった。
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