誘惑の延長線上、君を囲う。
日下部君は本当に落ち込んでいる。大人なんだから成り行きだった、って済ませれば良いのに。こういうところが日下部君は硬派なんだよね。事実とは異なるけれど、無理矢理にされたから責任とって結婚してよね!って詰め寄ったら、責任を感じてしまい本当にしそうだし。

「違うよ。たまたま立ち寄ったバーに日下部君が居たの。弱ってそうだったから、私が誘ったの。……ほら、私もさ、おひとり様で寂しいからさ、たまに肌恋しくなるし。成り行きだから気にしないで。もう、子供じゃないんだから……!」

作り笑いをしながら、明るく振舞った。日下部君はまだ落ち込んでいるのか、表情が暗い。

「こんな私とエッチしちゃったのがショックかもしれないけど、今後、こんな事はないんだから、もう綺麗さっぱり忘れちゃって……ね?……私も忘れたいし」

自分で言ってて、段々と辛くなって来た。泣くな、私。涙が目尻にじんわりと出てきたので、粒が落ちないように唇をキュッと噛み締める。

ガタンッ。

「……自分を卑下するなよ。でも、本当にごめん!覚えてないんだ。俺、どうしたら良いのか…」

日下部君は立ち上がり、椅子に座って居る私をふわりと抱きしめた。私は両腕を日下部君の背中に回し、ポンポンと軽く叩く。
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