誘惑の延長線上、君を囲う。
「あと、勝手な行動をしているもう一人の奴が企画営業部のデザイン担当の秋葉。おい、秋葉、早く来い!」

「あ、はい、すみません!」

一人で商品を眺めていた女性が早足で私達の傍に近寄る。

「秋葉 紫(あきば ゆかり)です。初めまして、佐藤さん。日下部さんは元上司でした。私にも日下部さんの黒歴史とか聞かせて下さいね!」

「あ、はい。どうぞよろしくお願い致します」

"あきばさん"と聞いて、私は言葉に詰まってしまった。彼女からはふんわりと良い香りが漂い、可愛らしさと綺麗さを併せ持ち、更にはスタイルの綺麗さが女性の憧れの的みたいな人。この人が日下部君の想い人だ。こんなに素敵な人、勝てる訳がない。しかも年下だと思うし、それはどう足掻いてもどうにもならない。どういう人か知らない方が幸せだったかもしれない……。

「何でお前はいつも勝手な行動をするんだ?」

「……だ、だって可愛い物が沢山あるし、綾美が仕入れた物はどれだろう?と思うと更に気になっちゃう!」

「それはね、こっちだよ、おいで」

「え?どれどれ?」

日下部君はコツン、と秋葉さんの頭を軽く拳で打った。その後、女性の高橋さんが助け船を出して二人で一緒に商品を眺めている。

「日下部君、皆、仲が良いのね」

「あの二人は特別、仲が良いんじゃないか?入社当時からずっと仲が良い」

一件、異なるタイプに見える二人だが、仲の良さが伝わってくる。女性の高橋さんはキャリアウーマンタイプで、秋葉さんはのんびり屋さんな印象がするけれど……仕事となると違うのかな?

「あ、お客様。……いらっしゃいませ」

談話をしている間にお客様がいらっしゃり、日下部君は店舗用のPCで少し作業をした後に皆を率いて職場へ戻って行った。女性の高橋さんを私に紹介する為に店舗に連れて来てくれたらしいので、その他の二人はオマケだったと言っていた。

日下部君は外に先に出て、店舗前に車を廻した。夫婦だからか、高橋さん達は後部座席に二人で乗り込み、秋葉さんは助手席だった。男性の高橋さんが助手席でも良かったのでは?……と思うと何だか複雑。秋葉さんが悪い訳ではないけれど、モヤモヤしちゃう。心の中は複雑で晴れ間が見えない。
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