誘惑の延長線上、君を囲う。
日下部君と一緒に居ると落ち着く。たまたま再開して一緒に居るようになって、好きだった想いが再熱する。以前よりも距離は近いけれど、恋仲には程遠い関係。

明日もお互いに仕事があるので、程よく二人飲みを切り上げて電車に乗り込む。同じ沿線と言っていた。カレカノだとしたら、どちらかの家に泊まれたのにな。途中でお別れだなんて寂しい。

「俺、二駅先だからホームに戻るから。ここから自宅まではきちんとタクシーに乗って帰ること」

「……うん」

居酒屋では沢山話をしていたのに、外に出てからは会話がなくなった。何故だろう?楽しかった雰囲気も束の間、どちらともなく口を開かなくなり、しまいには無言になった。ほろ酔い気分で家まで帰りたい。このままでは、帰る前に酔いが冷めてしまう。人間と言うのは不思議なもので、些細な出来事が影響して心の中が寂しくなると一気に酔いが冷めてしまう。私だけかもしれないけれど……。

「じゃあ、またな。今日はありがとう……」

「こちらこそ……」

電車の中では隣通しに座っていた。私が降りる駅に着き、ドアが開く。日下部君は私を自宅までタクシーに乗せるためだけに一緒に降りた。自宅は駅に近いから歩いて帰れると言ったけれど、夜遅いからと心配されタクシーに乗せられた。別れの挨拶をした日下部君は振り向かずに歩き出した。日下部君が行ってしまう……!小さくなって行く背中を見つめていたら急激な寂しさに襲われ、私は乗せられたタクシーから降りて駆け寄る。
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