誘惑の延長線上、君を囲う。
日下部君は右手をソファーの背にかけて、私の方向を向くように話しているけれど、私は目を合わせられないので左側に顔を向けている。再開した時は日下部君が泥酔に近かったので、どうせ覚えてないかも?との考えが強かったから気にしなかったけれど、今はほろ酔い位だもの。顔が火照っているのを見られたくない。

「めんどくさいからそのまま着ていけば良いのに。何なら、車で職場まで送ろうか?」

「そ、そんな事して誰かに見られたら、日下部君が困るでしょ。私達は付き合ってもいないんだし……」

正面を向きゴクゴクと一気に缶チューハイを飲み、顔を下に向ける。

「……じゃあ、どんな関係?」

「ど、どんな関係って……」

日下部君は下を向いていた私の顔を覗き込む。私は驚いて、ソファーの背に反り返る。私はきっと耳まで真っ赤になり、酷い顔をしていると思う。胸の高鳴りも止まらない。

「友達……?」

聞かれても私は何も答えられない。友達だったけれど、大人の関係を結んでしまった私達は一体何なのだろう?自分から、あの日の事は成り行きだから忘れて欲しいと言っておきながらも、引きずっているのは私。

「友達なら、一人暮らしの男の所に着いてきちゃ駄目だよね?……しかも、夜に」

日下部君は私の顔を見つめながら、私の髪に触れた。
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