誘惑の延長線上、君を囲う。
日下部君は私の首筋に舌を這わせた後、唇を近付けて肌を吸うようにつぼめた。離された時には、くっきりと赤い蕾が付いていた。何事もなかったかのように、すました顔をしてシャワーを浴びている日下部君が腹立だしい。

他人に見えてしまうような首筋にまで跡を付けて、日下部君は何がしたいの?何を望んでいるの?……私には全く理解が出来ない。

着替えた後、乱れたベッドのシーツを繕いながら、ふと思い出す。さっきまで、このベッドで抱き合っていたんだよね?手の平でシワを伸ばしながら、しみじみと余韻に浸る。

私は彼女でもないし、友達でもなくなった。今の状況に近い関係は多分……、セフレだろうか。都合の良い時に寂しさを共用し、お互いの欲を吐き出す関係。

次はいつ?なんて聞かないし、当然、次の約束もしない。

『大好きだよ』───そんな気持ちを隠したままに欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。

日下部君がバスルームから戻って来る前に寝転がり、タオルケットにくるまりながら目を閉じる。もう、余計な事を考える前にさっさと寝てしまおう。寝る前に……運動みたいな事をして疲労感が溜まったから、すぐに眠りにつけそう……。

うとうとしていたら日下部君がベッドに潜り込んで来た。眠さ全開の瞼をうっすらとこじ開ける。

「……おやすみ」

日下部君は私の頭を撫でた後、背中合わせに眠りについた。私は右側、日下部君は左側を向いている。
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