誘惑の延長線上、君を囲う。
私は振り返らずに毒を吐き、休憩室を出た。日下部君が休憩室に椅子を連ねて寝るって言うから、狭い休憩室が余計に狭苦しくなっているし……、だいたい外回りに行くんじゃなかったの?日下部君って高校時代は硬派で真面目だったけれど、時々、あんな風にサボったりしてた。先生にも同級生にも信頼関係を築いていたから、常に笑って許されていた気がする……。要領が良いと言うか、何と言うか。

私はいつもサボる事なんか出来なくて、一人になった時にしか気を抜けないタイプだ。常に全力、全開。優等生だけが取り柄だった私には貴方が眩しくて仕方なかった。

「……寝ようと思ったけど、委員長に見張られてるから眠れなくなった」

「人聞きの悪い言い方ね。高校時代もね、球技大会とか片付けとかは適当にサボってたの知ってたけど、試合には全力だったから……まぁ、黙認しててあげたけど」

店内をほうきで掃き出していると日下部君が休憩室から出て来た。紺のストライプのスリムスーツが似合っていて、直視出来ない。立ち姿が本当に格好良い。時に意地悪言うけれど、性格も悪くないし、容姿端麗だし、学歴も申し分ないと思う。その上、大手企業に勤務していてステータスも充分兼ね備えているのに、おひとり様だなんて信じられない。やはり、あの秋葉さんが関係しているのかな……?
< 46 / 180 >

この作品をシェア

pagetop