誘惑の延長線上、君を囲う。
「黙認しててくれてたのは知ってるよ。佐藤は絶対に言わないって確信もあった」

「何で?……先生にチクッてやれば良かった」

「それは佐藤が……」

「佐藤が、何?」

日下部君が何かを言いかけたから、ギロリと睨み付けた。あーぁ、こういう所が可愛くないって言われる原因なんだけれど……、好きな人には照れ隠しで、つい刃向かってしまう。昔からの悪い癖。

「いや、何でもない……。とにかく、佐藤は信頼してるから。さて、仕事しよ」

日下部君はPCに保存してあるデータなどを開いて、何やら作業をし始めた。

「佐藤、お願いがあるんだけど……」

「何?」

「掃除終わったらコーヒーいれて。ブラックで」

本日、二回目のコーヒータイム。昨夜の件があるので、私は日下部君の顔をまともに見れないのだが、当人は至って通常。平然としている。日下部君は私の事なんて好きでも何ともないし、過敏に意識なんてしないのがもっともなのだろうけれど……。自分自身で仕掛けたとはいえ、引きづっているのは誰でもなく私だったりする。

「はい、コーヒーどうぞ。ところで朝ご飯食べたの?菓子パンしかなかったから、嫌だった?」

「……食べてない。菓子パンは尚更食べたくないから、コーヒーだけ」

日下部君は私からホットコーヒーを受け取り、カップを口に付けた。朝は私が先に部屋を出た。やはり、朝食は取らずにコーヒーのみで済ませたようだ。

「卵焼いてご飯食べたり、納豆ご飯だけでも食べないと身体に良くないよ」

「……朝からめんどくさい。だったら、佐藤が作りに来て?」

私の顔をじっと見つめながら言われた一言。冗談なのか、本気なのか。
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