ストーリー
必要なものを捜し歩きながら希子はつぶやく。
「それにしても昔の人ってすごいよね。拍子切りなんてのは最初意味が分からなかったんだけど、拍子木っていうのが何なのか分かった時にそのまんまだって思ったんだよね」
「確かに。拍子木は知っていたから『拍子切り』って切り方を見た時には格好良ささえ感じたよ。
昔では夜回りの時に使ってたって話もあるくらいだからかなり古くから言われていたんだろうな」
「古くって、どのくらい?」
「幕末とか、江戸とか?もしかしたらそれよりももっと昔かもしれない」
希子は一樹の影響で幕末の人物に興味を持ち始めていた。斎藤一は左利きだったかもしれないという記録が残っている、とか、幕府の犬と言われた新選組が敵対していた坂本龍馬を暗殺したのは左利きを隠していた斎藤一だったかもしれない、とか。
ストーリー仕立ての本を読んだり、一樹の話を聞いたり、テレビで見た情報だったりしたが、歴史の中にも物語があったのかと分かりきったことにやっと気付いた瞬間だった。
その後もいろいろな情報を集めようとしながらSNSで新選組について詳しい人たちのグループに所属してみたりしたが、その熱量が違いすぎてついていけなくなってしまう。
先輩に料理について話を聞いて、自分と同じ料理好きの人とも関りを持つようになったがSNS上に載せられる動画のレベルが違いすぎてたまに挨拶する程度になってしまった。
いつも何かを探している希子にとっては、様々な人たちと出会いその人たちが自分らしさ、そして自分の好きなものを持っていることを羨ましいとはっきりと思うようになっていく。