囚われて、逃げられない
この頃はまだ野々花と付き合っていなかったが、泰氏は野々花からけっして離れなかった為、誰も安易に近づけなかったのだ。

野々花がいないことをいいことに、話しかけてきた女性社員。
「行かないよ」
「えーどうしてですか?今日は山道さんいないし…
お昼ごはんだけでも……」
「野々がどうのとか関係なく、君達に興味ない」

「どうして、山道さんなんですか?
あんな、地味な人……」

「は━━━?
今、なん、て…?」

「え?い、いえ…何も…」
思わず、顔がひきつる社員。
それもそのはず。
泰氏の怒りで、雰囲気が黒く圧迫されたから。

「あーあ、只でさえ今日は野々に会えなくて不機嫌なのに、愛する野々の悪口聞かされたらもう…狂うよね?」
「え……」
「どうしようか?」
「あの…ごめんなさい!許してください」

スッと立ち上がった泰氏は、自身のネクタイを外した。
「はい!」
そして、ネクタイを社員に差し出した。
「え?」
「死んで?今、ここで!」
「は?」
室内がざわつきだす。

「早く!」
「じょ、冗談ですよね…?」
「え?興味ない人間に冗談なんて言わないよ?
時間がもったいない」
「そんなことするわけないでしょ?
課長、おかしいですよ?」
「え?俺は、おかしい人間だよ?
今頃気づいたの?」
「私、今すぐ辞めます!バカバカしくて、やってられない!」

「はぁー、ほんっと…面倒だなぁ!!」
そう言って泰氏は、踵を返して去ろうとする社員に後ろからネクタイを首に素早く回し、一気に絞めたのだ。
「うっ…うぅ…あがが……」

この瞬間的な一連の行為に、周りの社員達は身体が動かない。
それ程流れが素早く、誰も泰氏を止めることさえもできないまま、その女性社員は亡くなった。
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