Your PrincessⅡ
9.釣った魚と2日目の夜

「そういうわけで、俺と蘭って昔からビミョーな距離があるんだよね」
 クリスさんの話を聞き終えて、私は嫌な気持ちになった。
 渚くんの過去の話も衝撃的で具合が悪くなったけど。
 クリスさんの話も、聞いていると切なくて苦しいものばかりだった。

「何のための呪いなんだろうね」
 独り言のように、クリスさんが言ったけど。
 私は答えることが出来ない。
「といっても、俺の場合は自分で望んだ呪いだから、贅沢は言えないのかもね」
 白い歯を見せて、ニカッと笑うクリスさんを見つめることしかできない。
「クリスさんの呼び名って…、サクラの本名から来ていたんですね」
 そして、話を聞き終えた自分の感想が、それくらいしか出てこない自分の頭の悪さにも落ち込んでしまう。
「そっ。でも、俺にピッタリの呼び名でしょ?」
 と、爽やかスマイルで言うので、うんうんと頷く。
 皆、植物の名前だし、渚くんは海の一族だから「渚」という呼び名は納得できる。
 でも、考えてみれば。どうしてクリスさんだけ物の名前じゃなくて、人の名前だったのか不思議だった。
 まさか、サクラの本名から来ているだなんて…。

「カレンちゃん。お願いがあるんだ」
「へ?」
 急に真剣な眼差しをしてクリスさんが言う。
 その目に吸い込まれそうになるが、後ろでサクラが殺気立っているのを肌で感じた。
 ずっと寝たふりをして、この子は起きていたのだ。
「蘭のことを見捨てないでやって」
「え?」
「蘭の味方でいてあげて」
 そう言うと。
 クリスさんは、すっとテントから出ていく。

「おかえりー」
 クリスさんが大声で言うと。
 遠くから「くりすぅー」と甘えた渚くんの声が聞こえた。
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