愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「海里、箱開けてみろよ」
 零次がピザの箱を指さして言う。
「うっ、うん」
 俺は恐る恐るピザの箱を開けた。

 目を見開く。

 マルゲリータのよく溶けたチーズ、BBQソースのかかった美味しそうな肉、油のついたカルビ。他の三種類のピザとは全然違うシーフードの独特な香り。
 俺はほっぺたがおちそうなほど美味しそうなピザを見て、それぞれの香りを嗅いだだけで、涙が出そうになった。
 こんなのあのまま地獄にいたら、絶対食べれなかった。

「海里、何泣いてんだよ。こんなんで泣いてたら、毎日泣くハメになるぞ?」
「毎日?」
「ああ。海里の人生はこれからどんどん楽しくなる。それを実感するたびに泣いてたら、毎日泣くハメになるぞ。少なくとも、俺といる間はな」
 零次は笑って、俺の背中を撫でる。
「……俺の人生、すげえ楽しくしてくれんの?」
「ああ」
 零次は当然だとでもいわんばかりに頷いた。
「ありがとう」
 俺は涙を拭いながら、笑った。

「零次、俺、もう無理。食べれない」
 弱音を吐きながらソファの背もたれに寝っ転がる。
 ピザが十二等分に切り分けられているから六枚食べなきゃいけないのに、四枚でお腹いっぱいになってしまった。

「いや、食え。後に二枚だぞ?」
 俺の隣にいる零次がソファから立ち上がって、テーブルの上にある切り分けられたピザを一枚とる。零次はそのピザを、テーブルの端に置かれている俺の皿の上に置いた。

「……いらない。残り、零次が全部食べて」

「そんなこと言ってっと、いつまで経っても太れないぞ?」
「うっ。じゃあ、後一枚だけ食べる」
 それを言われると、言い返せない。
 俺は皿を取って、どうにかしてピザを食べた。

「よくできました! じゃあしょうがないから、残りは俺が食ってやるよ」
 そう言って、零次は笑いながら残りのピザを食べた。

 俺はその後、一緒に暮らしているから放課後や登下校はもちろんのことだが、昼休みや十分休みなど、あらゆる時間を零次と過ごすようになった。その共有してる時間の中で零次が俺を連れていってくれたのは、ロブスターが上手い店、チーズハットグとかいうアメリカンドッグみたいな見た目のもの中に、何故かチーズが入っている食べ物の店など、俺からすればかなり新鮮な場所ばかりだった。そういうとこに連れてってもらえること自体が殆どなかった俺にとって、零次と過ごす日々は楽しいことばかり起きるとても最高の日々で、心の底から生きててよかったと思えるような日々だった。
 そんな日々が訪れてからおよそ一か月半がすぎた十一月下旬のある日、俺は零次と一緒に遊園地の入り口の前で、咲坂と茅野と待ち合わせをしていた。
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