愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様

「っ!!!!」
 手に持っていたビールを、頭からかけられる。
 かなり冷えていたのか、ビールの温度は氷を肌に直接当てられたんじゃないかってくらい低かった。寒さで身体が震えて、ただでさえ暴力のせいで弱ってた体の動きがさらに鈍くなる。

「動かなかったな、海里。いい子だ」

 父さんはビールの缶が空になると、俺の口の前にやっていたライターをポケットにしまった。

「海里、口を開けろ」
 口の中に指を突っ込まれ、歯と歯の間に爪を入れられ、無理矢理口を開けられる。

 指を噛もうとしたら、『お前の行動は読めている!』とでも言わんばかりに、足を踏まれた。

「父さんっ!」
 歯に指を押し付けらてるせいで、声がすごく出しにくい。

「んんっ!!??」
 指を入れられてできた隙間の中に、ビールの空き缶を無理に入れられる。
 缶の金属が歯に当たる。無理に開けられたからか、唇がめちゃくちゃ痛い。
「海里、ダメじゃないか、食べ物はちゃんと飲み込まないと」

 父さんは俺の口から飛び出している缶を持つと、あろうことか、それを口の中に押し込もうとした。
「んーっ!!!」
 ただださえこれ以上開かないくらい開いてる口が余計引っ張られて、血が出そうなほど口が痛くなる。
 食べ物じゃなくて、ただの空き缶だろ。

「もっと開けろ。缶をつぶせ、口ん中で」
「んんっ!!」

 腕に爪を立てられ、缶をさらに深く押し込まれる。そのまま三十秒ほど缶を押し込んでから、父さんは俺の口から缶を抜き取って、妖艶に笑った。その笑顔は、この世のものではないんじゃないかと思うくらい怖かった。

「どこで死にたい? 死に場所くらいは選ばせてやるよ。まあアイツの職場や新しい家の近くは却下だけどな」
 母さんが父さんをアイツって言った。離婚する前は滅茶苦茶好きだったハズなのに、そう言った。

「……いっ、嫌だ。死にたくない」
 俺は掠れ声を出して言った。

 だってまだ、零次に会えてない。会って話がしたい。飽きるまで遊びたい。

「奴隷がいつまでも我儘言ってんじゃねえぞ」
 胸ぐらを捕まれ、耳元で囁かれる。
 どうやら、俺は今日死ぬ運命らしい。

 誰か、助けて。

「……れ、零次っ。……たっ、助けて」 
 何で来ないんだよ。
 助けるって言ったくせに。

 嘘つき。

 次の瞬間、路地裏のそばを歩いていた高校生くらいの男が、手に持っている飲み物を父さんの顔にぶっかけた。
 男はパーカーのフードを被っていて、顔が見えなかった。
「あっつ!?」
 父さんは慌てて俺の手を離して、顔と髪の毛を服の袖で拭った。
 父さんについている飲料水は色が黒くて、熱い湯気を出していた。
 まさか、ホットコーヒーをかけたのか?
 俺はそのぶっ飛んだやり方を見て、男が零次なのではないかと思った。だが俺は疲労のせいで、それを確かめる前に気を失ってしまった。
 
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