わたしが最愛の薔薇になるまで
 双子がうんともすんとも言わなかったので、葡萄酒に口をつける葉室の眉が下がった。困惑しているのが見てとれて、私も困ってしまう。

 葉室と面会してからというもの、双子は頑として口を閉じていた。
 このせいで一向に会話が盛り上がらない。

「蕾、咲。お庭をご覧なさい。あの薔薇は、葉室様が外国から持ってこられたのよ」

 個室の窓から見える庭園には、薔薇が咲き乱れている。

 葉室は、諸外国から植物を輸入する事業を持っていた。とくに西洋薔薇は見た目の華やかさから人気が高く、買い付けの需要も多いそうだ。

 波打ったガラスの向こうに目を向けた咲は、ぽつりと呟く。

「植物は潮風にいたむはずです。よく海路で運んで来られましたね」
「特別な方法を用いているんだよ。外気に触れない特殊な容器に土を入れて、そこに種子を埋めて運んでいるんだ――」

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