さまよう
未来というものは存在しなかった。というより、存在しすぎていた。確定していない未来には物を流すことは出来ないのだ。不可能なのだ。
過去は一本道だった。その時々の“今”を生きた何十億の人たちの様々な行動の交差によって紡がれた一本道。過去は消滅することなく存在していたのだ。
物を過去へ流すと、“過去へ流した”という事実が残る。過去へ流した瞬間、“今”から“消滅”するのだ。
では、小石ではなく人間で試したら?
彼女なら可能かもしれないと専門家たちは思ってしまった。何かの証明は実験によって成り立っているが、超えてはならない一線というものもまた存在する。
人間を過去へ流したならば、今から消滅する。しかし過去は一本道であり、過去が変わることは無い。
過去へ流れた人間は、過去の人間に干渉することは出来ずにただ眺めるだけ、過去に存在するだけ。
過去の人間に認知されることもなく、助けを乞うことも出来ずにひっそりとその生涯を終えることとなるだろう。
大人たちは迷っていた。手を出してはいけない領域であると解っている。しかし専門家として知識を増やしたい好奇心は抑えがたいものがある。