さまよう
この日は検査もなく出かける予定も無かったため二人ともソファでのんびり過ごしていたところだった。
翔は読書に没頭しているのか洗濯物の会話は全く聞こえていなかったようだ。翼もやることがなく、翔がソファで本を読むと言い出したので自分もソファでスマートフォンを触って時間を潰すことを選んだ。
翔がソファに居るとき翼は部屋に行くことが出来ない。翼が部屋に居るとき翔はソファに行くことが出来ない。その二人の身体は離れることが出来ないからだ。
一度意見が分かれてそれぞれ過ごしたい場所に移動しようと試みたことがあった。翼が部屋へ、翔がソファへ。
その足先が離れるかと思ったところで双方が双方に引っ張られる感覚になった。気にせずに好きな方向へ歩を進めたが、悶絶するほどの激痛が足に走り、気絶しそうで出来ない痛みを数分間味わうことになった。
それ以来双方意見を言い合って相手に合わせたりお願いしたりするようになった。
食事の際は長椅子を用意し、少し体が重なるように座る。二人はぶつかることがない。並べられた料理を好きなように食べる。
風呂は小競り合いが起こる。翔は少し熱めのお湯が好きで、翼は少しぬるめのお湯が好きで、まだシャンプーしている最中にシャワーを出されたりもする。
最悪なのはトイレだ。なぜ人の排泄を間近で待たないといけないのか。そうはいってもその生活も二十二年も経てば慣れたものだし慣れるしかなかった。
午前ののんびりした時間を過ごしていた翔の携帯が鳴る。
本に夢中になっていた翔は翼に名前を呼ばれてそれに気付いた。