七夕の夜、二人で見上げた星空
8.曇りガラスに、彼の名前を書く

 翌日から、雨が降り続いて湿度も上がってきた。


 本格的な梅雨の季節を前にして、クラスメイトも夏服に移行する。

 蒸し暑い不快な季節が始まり、傘を持ち歩く日が続いた。


 私は教室の窓から外を見つめてる。

 窓ガラスを打ち付ける雨、流れ落ちる水滴。

 水溜まりに広がる丸い波紋、カラフルな傘とレインコート。

 下校する小学生は楽しそうに水遊びをしてるけど、私の心は憂鬱だった。


「宇佐さん、ちょっといいかしら」


 振り返ると早瀬さんが立っていた。

 いつもと変わらないクールな表情と、メガネ越しの綺麗な瞳。

 湿度を感じさせない、ストレートの長い黒髪に手串を入れてる。


「早瀬さん、どうしたんですか?」


「放課後、委員会の集まりがあるんだけど、すぐ終わるから待っててもらえるかしら」


「この教室でまってればいいの? わかりました」


 私は理由を聞かず、待つことを約束した。

 彼女には色々と助けられたし、何でもいいから恩返しをしたい。

 恋愛の相談をされたら答えられないよ、年齢イコール恋人いない歴の私は力になれないから。



 窓際に立って外を見つめてると、教室に生徒の姿はなくなっていた。

 みんな帰宅したようで、静まりかえった教室に私一人しかいない。


 蒸し暑くなってきた室内、曇りガラスに指先を走らせて彼の名前を書く。



『せとたつやが好き』



 その時、早瀬さんが静かに姿を表した……




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