七夕の夜、二人で見上げた星空

「どうしたのかしら?」


「いや、なんでもないです!」


 曇りガラスに手の平を滑らせ、慌てて彼の名前を消した。


「ごめんなさいね、遅くなって」


「いえ、いいです」


 私のほうが年上だけど、入学初日から話す敬語が抜けないでいる。

 あまり気にしてないけど、考えてみれば、クラスのみんなより年上だって知ってるのは早瀬さんだけ。

 変に身構えるより、現状の方が楽みたい。


「さっそくだけど、さっき職員室で先生に詳しく聞いてきたわよ」


「何をですか?」


「瀬戸先輩の停学処分、他校の生徒と喧嘩したんですって」


「だから……理由が喧嘩だったなんて、瀬戸くんらしいというか……」


 あきれて言葉がでない。中学生だったら反省文だけど、高校は停学だよね。

 深いため息をつく私に向かって、ちょっと目尻を吊り上げた早瀬さんが言ってきた。


「今度なにか不祥事をおこしたら、退学らしいのよ。先輩が一年生だった時も停学処分を受けてるみたいで、軽率なのよ!あの人!」


 クールで冷静な早瀬さんが、本気で怒ってる。

 まさかとは思うけど、前に屋上で言ってた好きな人って……


 なんて想像してたら、急に早瀬さんが私に抱きついてきた。

 胸を押しつけ、両手で力強く私の体を抱きしめてくる。

 心臓の鼓動がドキドキ早くなる私の顔に頬を近づけ、早瀬さんが耳元で囁いてきた。


「わたしは、何回も告白してるの……」


「えっ!」


「宇佐さんに、渡すつもりないから……」


 そう言うと、私から体を引き離して背中を向け、教室を出ていった。

 放心状態の私、何が起こったのか理解できないでいる。

 一人で帰ってしまったのか、早瀬さんは教室から姿を消した。


「なんだったの……」


 早瀬さんが何回も告白してる相手は、間違いなく瀬戸くんだ。

 疑惑が確信に変わったとたん、彼女がライバルに見えてくる。

 でも、私が瀬戸くんを好きだってことは知らないはず。


 胸をなで下ろし、振り返って外を見つめた。

 降り続ける雨のせいで、教室の湿度が上昇してる。

 さっきより窓に水滴がついて、曇りガラスになっていた。



 そこには、消したはずの文字がハッキリと浮かび上がってる。

『せとたつやが好き』



 早瀬さんに、見られてしまった……




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