私の婚約者には好きな人がいる
なにがあったのか、察することができるのは自分があちら側の―――高辻社長や恭士さん側の人間だからだ。

「この試験をクリアしないと娘は渡さないと言うことか」

もう手放せなくなっているとわかっていて、こんなことをしてくるのだから、相当意地が悪い。
殺風景だった部屋のテーブルには咲妃が飾った明るい色の花が置かれていた。
そこだけが部屋の中で唯一、暖かく見えた。

「絶対に取り戻してみせる」

それが、相手の思惑通りだとしても、 乗るしかなかった。
失わないためには。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


いなくなってから、高辻の別荘を探したが、誰かが出入りした気配は一切なかった。
海外かと思っていたが、パスポートが置いたままにされてあったから、その可能性はない。

間水(まみず)、悪いな」

「いや、大変なことになったな。高辻が所有する別荘にはいないみたいだな」

「ああ」
< 136 / 253 >

この作品をシェア

pagetop