私の婚約者には好きな人がいる

高辻の主


一緒に買い物に行って以来、恭士(きょうじ)さんは自分が買った服を私が着ているのが、嬉しいみたいだった。
私も普段着が増えたから、助かっているけど、こんな度を過ぎた親切を誰にもしてもらったことのない私にすれば、なんだか複雑な気持ちだ。
三つ編みも時々はやめて、髪をアップにしていると、恭士さんが遠回しに褒めてくる。
それが、なんとなく恥ずかしいので次の日は三つ編みに戻す。
その繰り返しだった。
本当になにをやっているのか。
そして、恭士さんはなぜか私の休みの日を把握していて、気まぐれに食事に誘い、ご馳走してくれる。
たぶん、可愛がっていた妹さんがいなくなって寂しいからだろうけど―――

夏乃子(かのこ)さん、どちらにいらっしゃるの?」

珍しく奥様がいて、いつもなら絶対に足を踏み入れないキッチンまで入ってきた。

「ここにいます」

キッチンの奥にあるパントリーから顔を出した。
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