私の婚約者には好きな人がいる
髪を乾かし、バスルームから出ると、部屋をノックする音がして、ドアを開けた。

「恭士さん。どうかしたんですか?」

「渡しておく」

メモに携帯の番号と向こうの会社の番号が書いてあった。

「連絡先?」

「そうだ。なにかあったら、必ず連絡しろ」

「なにもないと思いますけど」

「わからない」

まあ、そうだけど。
意外と心配性なとこあるよね。

「ひゃっ!」

突然、恭士さんの指が髪をすくい、首筋にふれた。

「夏乃子は首が弱いよな」

「わ、わかってるなら、やめてください!」

「夏乃子。一週間、会えないと寂しくないか?」

「一週間なんて、すぐですよ」

恋人同士みたいな会話だなあと、思っていると、恭士さんは言った。

「俺には長い」

顔を近づけられて、目を閉じた。
まるで、キスをねだるみたいで恥ずかしかったけど。
至近距離で、あの整った顔を眺める勇気もない。
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