私の婚約者には好きな人がいる
胡散臭(うさんくさ)いと思われたみたいだった。
けれど、奥様が言った通りスーツでよかったと今更ながらに感謝した。
普段着で来ていたら、私だけじゃなくて高辻の皆も恥をかいていた所だった。

「桑江様。社長室まで届けてほしいとのことです」

「わかりました。あの社長室はどこですか?」

「社長室は最上階です」

言った受付の女性はくすっと笑った。そうだよね。一階とかにあるわけないか……。

「ありがとうございます」

エレベーター前に行くと、違和感なく乗れたけど、すでに気疲れと緊張でぐったりしていた。
いつもの仕事とは違う疲労感だった。
最上階まで行くと、そのフロアにいる人達の雰囲気は全然違っていて、秘書室や重役の人達は上等なスーツを着て、いい香りがした。

「……え、えっと。社長室へ」

すれ違う女の人はみんな大人っぽくて、仕事ができます!という空気をまとっている。
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