私の婚約者には好きな人がいる
「愛人なるか、別れるか、選択肢はそのどちらかしかない」

―――愛人。
当たり前みたいに旦那様はそれを言えるんだ……
それが悲しい。
あの高辻の家を包む重苦しい空気を思い出して首を横に振った。

「愛人にはなりません。きっと恭士さんは私を愛人にするくらいなら、きっぱり捨てます。奥様を見ていたら、そんなこと絶対にできないからです。知ってますか!?奥様は旦那様が戻られる日は洋服を選んで、お化粧をして、家の中を見回って、嬉しそうに待っているんです」

旦那様が睨み付けてきた。

「何も知らない他人が人の家庭に口出しするな」

「恭士さんや奥様のお好きなものをご存じですか?ご自分の家庭だと言い張るなら、答えられますよね」

旦那様は答えることができなかった。
私だって、これだけ働いていれば、嫌でもわかる。

随分(ずいぶん)威勢(いせい)がいい。そういう生意気さを恭士は気に入ったかもしれないが、私は違う。従順で逆らわない人間が好きだ」

そう言った旦那様の目はぞっとするほど、冷たい目をしていた。
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