私の婚約者には好きな人がいる
「さて、恭士のことを諦めないと言うなら仕方ないな」

ちら、と旦那様は棚の陰に目をやる。

宮竹(みやたけ)さん、君のところも品格が落ちたものだな。大事な息子に手を出したあげく、別れないと言うんだが」

棚の陰から、青い顔をした宮竹さんが現れた。

桑江(くわえ)さん。お客様の事情に口出しをしたあげく、その服や化粧はどうしたの?家政婦としてふさわしいとは思えないわ」

「これはっ、ここにくるなら、スーツを着るべきだと思って」

「香水までつけて。そうまでして息子さんを誘惑したの?情けないわ」

涙声の宮竹さんの背後で高辻社長は笑っていた。

「宮竹さんとの付き合いも長いことだ。彼女をクビにし、今後、恭士に近づかないというなら、それでこの件は終わりにしよう。その条件が不満なら、私の息がかかっている所の契約は全て切るが?」

「そんな!」

私の悲痛な声に宮竹さんは深く頭を下げた。
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