私の婚約者には好きな人がいる
だから、奥様は家政婦に対して、神経過敏になり、嫌がらせを受けても事情を知っている豊子さん達はなにも言えなかったのだ。
旦那様は宮竹をすぐに辞めさせ、愛人にし、結婚はしかるべき家柄の奥様を妻とした。
はあ、とため息をつき、目を閉じた。
愛人になるか、別れるか、平気で聞いてくるくらいだから、きっとそれが悪いと思ってないんだよね。
恭士さんがそんな人じゃなくてよかった。
うとうととしていると、恭士さんの髪が頬にかかった。
香りですぐにわかる。

「なにを笑っている」

「寝込みを襲わないで下さい」

「起きていただろう」

恭士さんは目を細め、嘘をついた罰なのか、深いキスをし、舌を絡ませ、何度もキスを繰り返した。
息を乱し、力の抜けた私の頬を愛おしげに撫でると、耳元で囁いた。

「初恋は実らないと、夏乃子は言っていたな」

「いいましたね」

「違うと認めろ」

確かに違っていた。
恭士さんは何度も恋はしない人。
してはいけない人の間違いよね……
だって―――

「こんな危険な人、恋は一度だけでいいんです」

私はそう言って、悪人面をした恭士さんにキスをした。

【了】


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