私の婚約者には好きな人がいる
次の日の朝には熱が下がったけれど、休むよう両親から言われて、部屋から出ることはかなわなかった。

「はあ」

熱が下がると寝ているのも退屈でリビングに行くと、お母様がどこかに出掛ける支度をしていた。
今日はどちらへ行くのだろう。
お母様がでかけるのはいつものことだった。

「あら。熱はさがったの?」

「ええ」

「良かったこと。ねえ、咲妃。もう会社勤めはよろしいのじゃなくて?」

「でも、私……まだ……」

「高辻の娘が働いているなんて、外聞が悪いわ」

「奥様、遅刻されますよ」

「あらあら。今日はお茶の日なのよ。それじゃあね」

生粋のお嬢様だったお母様にすれば、働くことも反対だったに違いない。
お父様が賛成してくれたから実現したことだった。
お母様が言う通り、もう行かなければ、何も聞かずに済む。
もう婚約パーティーは開いてしまったし、結婚するまでおとなしくしていればいいだけのこと。
それなのに―――

「咲妃お嬢様はお好きにすれば、よろしいんですよ。温かいお茶をおいれしましょうか」

私の心を読んだかのように静代さんが言った。
やっぱり静代さんは何でもお見通しね。
昔から高辻のために尽くしてきてくれた静代さん。
でも、私の完全な味方じゃないこともわかってる。
静代さんもお父様の意見あっての賛成だった。
キッチンに向かおうと背を向けた瞬間、チャイムが鳴った。

「奥様が忘れ物をなさったんですかね」

静代さんが慌てて、ドアを開けると惟月さんが立っていた。

「まあ、惟月様!」

静代さんは驚き、私のほうを見た。
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