おもいでにかわるまで
水樹は先生の部屋まで教材を運びに行き、それから明人は5年生の教室に移動して堀田の席の前に座った。

「明人お前学校来すぎじゃね?目を覚ませ。」

「は?来て悪いのかよ。」

5年生の教室内にはクラブの始まりを待っている学生と、帰ろうとしている学生と、それから男女数人で話しながらレポートを書いている勇利がいた。

そして教材を先生の部屋まで運びに行った水樹の方は、明人の事について考えていた。その話し掛けるなの雰囲気が怖くて、水樹は今日も明人に話し掛ける事が出来なかった。

実は明人の留年に関しては、もう3月からクラスの皆も知っていて、そしてそれとは別に勇利からも直接聞いていたのだった。

‘難しいかもだけど色々頼むよ。’と言われ、それに対して水樹も‘もちろんです。’と快諾したのは単純に、勇利に頼まれたからだけではなかった。あの2年前の食堂での出来事を水樹は忘れる事はない。水樹が勇利の元彼女の仁美と口論をした時に、明人は水樹をかばって濡れてくれた。

もし明人が少しでも馴染んでくれて、もう少し容易に話しかける事が出来るようになれば、明人は覚えていないかもしれないけれど、ちゃんとまだ言えずにいるお礼を必ず言うんだ、と水樹は新たに決め直した。

先生からの頼まれ事が終わると、また別のお使いを頼まれてしまった。

「この電池隣の教室の5年生の誰かに渡しといてくれる?」

「えっ?」

水樹は喜んだ。4年生と5年生の教室は隣同士ではあるけれど、5年生の方が奥にある為に前を通る機会がほぼ無いので、だから水樹が期待していたよりは廊下で勇利に会う回数が少なく残念に思っていた。

だから水樹はこの機会を喜び、元気良く先生に返事をして心も足も弾み気味に5年生の教室に向かったのだった。そして水樹が5年生の勇利の教室に着くと小さく深呼吸をし、自分に言い訳をした。

今日は本当に用事があるんだから来ても変じゃない。自然に、自然に・・・。と心の準備をしていたら、何故かまた勇利の方からやってきた。

どうしていつもばれているんだろう?と水樹は不思議でならなかった。
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