おもいでにかわるまで
夕食の時間には全員で揃って団らんする。こうした練習以外の時間の共有は団体競技に欠かせない重要事項かもしれない。

「やばい緊張する。」

明日が迫りくるにつれ5年生の口数が増えてきていると感じつつ聖也は傍観した。

「俺広島のガイドブック買っちゃってさー。」

「俺なんて初めてコンタクト買ったからね。ゴールの端っこ超狙えるって。」

そしてマネージャーの夏子もいつだって仲間同士の会話では欠かせない大切な存在だった。性別の違いに関しては難しい領域ではあるけれど、部員にとっては女子マネージャーは可憐で健気に咲く一輪の花であり、皆に愛されている。

「応援するからね。ほんと頑張ってー。」

「おーさんきゅー。でもまじ今日もお茶うまいわー。あっ!」

そして部長がお茶をこぼした。このどこかで見た光景に聖也はやっぱりか、とヒヤリとし、それからおもむろに水樹に目をやった。浮足立っている先輩達に癒しの手を差し伸べる代わりに、この前の様に可愛く怒って欲しかったのだ。

でも、水樹は聖也の予想とは違う動きをした。水樹はすぐさま布巾を持つと黙って部長がこぼしたお茶を掃除した。

何それ・・・。この前と違うじゃん・・・。ほんとお前読めねーよ・・・。

聖也は予想より一つ上を行った水樹に肩透かしを食らいそんな自分が可笑しくて、それに、水樹もまた、水樹なりに自分達の事を思ってくれているんだろうかと心地良くもあった。

食事が終わり風呂の後、5年生の部屋で高学年はミーティングがてらくつろいでいた。そこにはもちろん夏子もいて、聖也は夏子に問いかけた。

「明日は夏子さんがスコアつけるんですか?」

「うん。そうだよ。」

「水樹が時間見ててくれる?」

「うん。そうだよ?どしたの?」

「あ、うん、ちょい頼みたい事あるからちょい行ってくる。」

「私から後で伝えておくけど?」

マネージャー二人は同部屋なのだ。

「あ、いや・・・。」

そう身も蓋もなく言われれば聖也も躊躇(ちゅうちょ)する。でもそこはさすが恋人のいる恋愛中の女だ。夏子は敏感に反応し、聖也の気持ちを優しく汲んでくれた。

「うん、やっぱいいや。聖也行っといでよ。それでいっぱいパワーチャージして貰いなね。」

はい?うっせーよ用事だし、と聖也は余計な一言を言わずにいられない性格の夏子にばれないように再び可笑しくなって微笑んだ。

あーやべっ、ガチガチだわ、俺・・・。

そして試合にガチガチなのか、今から会う彼女にガチガチなのかはっきりしないまま、聖也は5年生の部屋を抜け出し水樹の部屋に向かった。
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