おもいでにかわるまで
「勇利お前さ、昨日の帰りお前んちと反対行きの電車乗ってたろ。」

「見てたの?声掛けてくれれば良かったじゃん。」

「いや、全然声掛けられる雰囲気じゃなかったし。それより毎日送ってんの?やばいねそれ。お前マメ過ぎ。でも最初から飛ばすと俺はもたないと思うけどね。」

「大丈夫だって。俺達最初から飛ばしても超長続きするカップル世界第1号だからね。」

「へいへいへいへいなんか耳が痒いわもー。」

「ははは。」

和やかな会話とは裏腹に、水樹の理解がついていかない。クラっと倒れそうになるのを我慢して、そしてドアから離れグランドの方に戻った。

ドク、ドク・・・。心臓の音が大きくなり、とにかく混乱した。

どういう事?そういう事?えっ、えっ、ううん、わからない、どうしよう、わからない・・・。

その日の練習中は、水樹は勇利の事で満タンでずっと混乱していて、まだ何も確定していないはずなのにもう胸が張り裂けそうだった。

知りたい。確かめたい。怖い。もしかして勇利さんにはもうっ・・・。

練習が終わると普段なら自転車でさっと帰宅するのだが、今日は足が動かず一番校門から近い館内で休んでいた。

いや違う、水樹はここを勇利がきっと通るとわかっていて、わざと待っていたのだ。

知りたい、知りたくない。水樹は怯えて胸が苦しくてたまらない。

それからまもなく・・・。

勇利と仁美に会った。

「う、宇野さん・・・。」

「あれ、まだいたの?冷えてきたし暗いからお前も早く帰れよ。」

「水樹ちゃんバイバイ。」

勇利達は一度も水樹の方を振り返る事なく、少し遠慮気味に寄り添いながら帰って行った。お似合いで、益々胸が苦しくなる。

自分が勇利に出会ったあの日よりも前から、もっとずっと自分の知らない時間が確かにあって、二人は結ばれる事になっていた。

それなのに自分は一人で浮かれて舞い上がって突っ走って、最後は自分で自分を追い詰めて、ほんとにまぬけで恥ずかしかった。

水樹は、恋をしているんだとやっと気が付いた。

そしてその瞬間に、その恋を失ってしまった。

失恋しないと気が付かない自分が馬鹿過ぎて、涙は出なかった。

でも、目を閉じると灰色の世界が重くて広くて脱力した。明日からどの気持ちを込めて勇利と呼べばよいのかわからない。

やっと始まろうとしていたのに、無理矢理終わらせないといけないのかと苦しくて、だけどどうする事も出来なくて・・・。

辛いよ・・・勇利さん・・・。

水樹はまだ泣けずに自転車を漕いで家に帰った。
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