おもいでにかわるまで
「た、卵の注文って昔と同じなら晩の8時までだよね。」

「あ、そうでした急がないと。羽柴君に明日の事について連絡しますね。」

「持っとくよ。」

聖也は水樹からヘルメットを受け取った。手袋越しでもヘルメットはきゅんと冷たくて、11月の夜の寒さを教えてくれる。そして水樹が瞬介との電話を終えると近寄った。

「着ろよ。」

「え!?いいです、そこまでは寒くないですよ。正木さんこそ風が当たるから寒いですよね。」

「寒くねーよ・・・。」

確かに嘘ではなかった。バイクの後ろにいる水樹を背中が強く求めて体温が上がってしまうのだ。

それから聖也は上着を脱いで有無を言わさず水樹に被せ、黙ってバイクに跨がった。水樹も何も言わずにバイクに乗り、片手で聖也の腰をわずかにホールドした。その遠慮がちな指の感触に聖也の体の熱は一気に上昇したが、でも何故か切ない。

もしも俺がこの後どうにかなっても、そうさせてしまうのは罪な私のせいだと水樹はいつも通りに優しく笑って、この馬鹿でどうしようもない男を許してくれたりするんだろうか。

そんな事を思い始めると、今度は赤信号になっても水樹に話し掛ける事が出来なかった。

そして屋台用の品物が売ってある業務店に着くと、明日の開店時に車で引き取りに来るという交渉をした。

「5年のさ、車出せる先輩に連絡したらさ、明日朝一で運んでくれるってよ。」

「はあ、良かった。ほんとに良かったです。」

「ああ。」

「お店もあっという間に調べてくれるしバイクもあっという間に走らせてくれるし、正木さんが私の先輩で本当に良かったです。ありがとうございました。」

「そんなのいいって・・・。」

「すっかり遅くなってしまいましたね。すみません。」

「腹減ったね。何か食いに行く?」

「あ、母が軽く晩御飯を用意してくれているので・・・すみません。」

「家どこ?送ってくよ。」

「自転車を学校に停めています。お店の片付けもあるし、だから・・・。」

「今から学校戻っても9時になるぜ。なんなら羽柴には俺から言ってやるから電話してみな。」

「・・・そうですよね。大丈夫です。羽柴君には自分で伝えますね。」

水樹は瞬介に再び電話を掛け、今日は戻らない事、片付けが出来ない事、せんべいは翌朝5年生が運んでくれる事等を説明した。
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