おもいでにかわるまで
水樹は興奮したままだった。そして明人まで巻き込んでしまい、差し出がましい行動だったと反動で落ち込んだ。

「聖也君、俺も直で家帰るね。お疲れ様。」

「私も帰ります。部長さん、正木さんお疲れ様でした。」

「水樹一人でいける?」

「はい。自転車なので平気です。」

「お疲れーい。」

水樹と勇利は一緒に歩いた。

「びっくりしたよ。水樹ちゃんて、俺らが思うより気が強いんだね。」

「なんか妙に気持ちが入ってしまって・・・恥ずかしいです。まあ、でも、スポーツマンは負けん気が強くて根性が座っていないと、試合では勝てませんからねっ。」

「ごめん。それちょっと意味わかんない。あはは。」

勇利が笑ったので水樹の元気が増えた。そして勇利は門の方には行かずに水樹の為に駐輪場まで来てくれたのだった。

「ここまで送ってくれたんですよね。ありがとうございます。」

「うん。でも紙コップとは言え、また頭に直撃しなくて良かったね。明人には俺からお礼を言っておくよ。」

「はい。ありがとうございます。ほんとに宇野さんは良いお友達が沢山で凄いです。」

「明人は不思議な奴だけどね。」

「そうなんですね。」

自転車の横に立ち、水樹は最後に出来得る限りの最高の笑顔で別れの挨拶をした。

「送ってくれてありがとうございました。宇野さん、元気出して下さいね。ボールもそうだけど、宇野さんがこれ以上傷付かなくて私は良かったです。」

「えっ・・・。はあ。後輩にまで心配されて気を使われて、情けないよ俺・・・。ほんとはね、まだ心も体もズタズタなんだ。彼女の事、大好きだったからさ・・・。」

勇利は目を赤くさせて斜め下に視線を落とした。水樹は励まさなければとたまらない気持ちになった。

「そんなに好きなのに、許してもう一度やり直すって出来ないものなんですか?」

勇利は少し考えた後、一度水樹の方を見てまた下を向いて首を横に振った。

「俺がもう無理だから。」

「まだ好きなら仲直りして、また幸せそうな宇野さんを見せて欲しいですっ。」

「あのね・・・、俺的にそれはもうないんだ。」

そういうと勇利は堪えきれずに下を向いたまま鼻水をすするように声を殺して泣いてしまった。
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