お嬢様は恋したい!
「そろそろ帰るか。」

楽しくてちょっぴり苦い時間は、もう終わりのようだ。

「はい。」

行きは、陸斗さんと鈴木主任の掛け合いで楽しかった車内は、ふたりきりだと今日は言葉少なで静かに過ぎていく。

でもその静けさが嫌じゃない。

そう思っているのは私だけ?

前を見て運転する鈴木主任の顔を盗み見ては、自分のどうしようもない気持ちとどう折り合いをつけたらいいのか考えていた。

あと2ヶ月で結婚できる相手を見つけなきゃいけない。

恋をして、その人と未来を歩めたらと思っていた。

好きになった鈴木主任には婚約者がいるから、諦めて違う人とと考えて合コンにも行ってみたし、なりゆきから陸斗さんと交際をするつもりになって、デートに来た。

陸斗さんがいいのか、ほかに探すのか決めかねている。

なのに、今…横にいるのは鈴木主任で、益々惹かれている。

あまり選びたくないけれど、2ヶ月間この人に叶わない気持ちを持ち続けて、恋ができただけでも良かったと思って、笠松さんという会ったこともない人と結婚を選ぶ?

どれを選んでも正解なのか、わからない。

「どうもありがとうございました。」

車がアパート前に到着したので、お礼を言って、降りようとしたところで鈴木主任のスマホが鳴った。

「ちょっと待って。陸から電話だよ。…陸?まだ香いるけど話すか?」

鈴木主任が電話に出ると車内に陸斗さんの声が聞こえて来た。

『香ちゃん、今日はごめんね。一誠、サンキュ。』

「急用じゃ仕方ないですよ。終わったんですか。」

私が聞くと話してくれた。

『ちょっと仕事で呼び出しがあったんだけど、なんとか片付いたから。』

「それは良かったです。」

『そっちは?』

「いまアパートに着いて、車を降りるところでした。」

『近いうちに今日の埋め合わせするから。また明日ね。香ちゃん。』

「はい、陸斗さん。」

電話が切れて、横を見ると鈴木主任は、ため息をひとつついた。

「それじゃ、香。また明日な。」

「はい。今日はありがとうございました。」

車を見送りながら、陸斗さんと話したのに、鈴木主任の事を考えていた。







< 22 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop