お嬢様は恋したい!
仕事を始めて2週間ほど経ったある日、マンションに着くとエントランスにいつものスーツ姿ではない川田さんが待っていた。

「あれ?休暇で海外に行ったんじゃなかったんですか。」

「えっ、行ってないですが…もしかして社長が休暇の話をしましたか。」

「えぇ、2週間もまとめてお休みなんて珍しいから。」

「社長に煩わされる事なく、調べたい事があって休暇をいただいただけです。」

社長(お父様)を煩わしいと言えるあたりは、相変わらずのようだ。

「何か話があるの?」

「はい。」

立ち話という雰囲気でもなかったので、部屋に通す。

「コーヒーでも淹れましょうか。」

「私がやります。」

川田さんは勝手知ったるキッチンで自分用のコーヒーと私用のデカフェを用意してくれた。

ひとくち飲んで、マグカップをテーブルに置くと目の前の川田さんがいきなりラグの上で土下座してくる。

「ちょ、ちょっと川田さん、どうしたのよ。」

「本当にお嬢様には申し訳ない事をしました。」

「な、何?」

「お嬢様は、ひとりで育てるとおっしゃっていましたが、あの男が何も知らずにのうのうと生きていくのはと思い、調べさせていただきました。」

「まさか、そのために休暇を…」

「顔は覚えておりましたから、あの合コンに参加していた女性に確認したところ…」

「浅田さん達に余計な事を言ってないでしょうね。」

「それはもちろん。仕事でちょっとツテを作りたいからと。特徴を伝えたら主任の鈴木一誠さんだろうと教えてくれました。ただ、彼は家庭の事情で年末に会社を辞めていました。」

「一誠さんが…」

「住んでいた所も引っ越しして、連絡先を知っている社員がいないようです。お嬢様の話を直接しなくても、何かあった時に連絡が取れるようにしておきたかったのですが、全く消息が分からなくなりまして…そんな男との付き合いを応援してしまった自分を許せません。」


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