仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
私はワイングラスを手に取る。ひと口含むとタンニンの渋みに舌がぎゅっとすぼまった。

「無理やり抱いてみる? 言っておくけど私初めてだから、そんな初体験植え付けられたらトラウマになるわよ。さらにレイプ犯の夫を警察に突きだす覚悟はある」
「ん~、それはしない。言ったでしょ。初日に強引にして反省してるって。それに純愛なんだ。希帆の心がほしい。無理やりじゃ心は動かない」

風雅の表情はいつもの笑顔に戻っている。あの執着の強そうな冷笑は、どこかへ引っ込んでしまった。

「希帆が俺のこと大好きになって、毎日毎日俺のこと考えて、俺無しじゃ生きていけなくなるのが理想かな」
「気持ち悪いこと言うのね。っていうか、私のキャラ的に無理」
「うん、だから現実的な希望を言えば、友達よりもう一歩踏み込んで好きになってもらえたら嬉しい。子作り解禁って言ってもらえる程度に」

私をコントロールしそびれた風雅は、困ったように言う。私は嘆息して、背もたれに身体を預けた。

「やっぱ長い目で見て」
「あはは、スタートに戻ったね」

風雅は楽しそうに笑ってオードブルを口に運びだした。
確かに結婚スタート時に戻った。張り合って負けない姿勢は示したものの、結局、時間をかけて風雅を好きになっていく方針しかないらしい。
でも、一瞬風雅の根っこの部分が見えた。他者を支配するのに長けた本性を垣間見られた分、話してよかったと思った。

風雅は意味不明、理解不能……というより、やはり非凡なのだ。常人の感覚と違う。それは愛情もそうなのだろう。
もともと得体のしれない男だからこそ、素を見せてくれたことには価値がある。
風雅は私に執着していて私に恋している。その気持ちは信じてあげた方がよさそうだ。
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