仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
「風雅、何すんのよ!」
「希帆、台湾に戻るんでしょう?」
「戻るわよ。最初からその約束でしょう。行ったり来たりの結婚生活でいいんじゃないの?」
「『我会继续住在台湾』」

風雅がさっきの私の言葉をそのままなぞった。今後も台湾で暮らすという意味の……。
あのあたりから聞いていたのね。というか、中国語上手いじゃない。聞き取れるし、理解できるのね……。

「結局俺と暮らしてくれる気はないのかぁ」

風雅の顔は見えない。私のみぞおちあたりに顔を埋め、ぎゅうぎゅうと抱き締めてくるので、お腹のあたりからくぐもった声が聞こえてくる。

どうしたものか。あまりよくないタイミングでよくない発言を聞かせてしまったかもしれない。
むしろ、振り払ったはずの罪悪感がふつふつと蘇ってくるのを感じていた。
私は風雅の気持ちを知っておきながら、黙って置いていこうとしていた。

「風雅、とにかく離して。お腹苦しい」
「やっぱ抱いちゃおうかなあ」

その言葉にぞくっとした。この男、たぶん冗談で言っていない。背に食い込む指の強さが本気を物語っている。

「風雅、待って」
「赤ちゃんできれば、希帆こっちにいるもんね」
「そ、そんなことわかんないわよ。私にひどいことしたら、お腹の赤ちゃんと台湾に逃げてやるんだから。さっき通話してた美芳は、家族で会社経営してて、おばあちゃんまで会社にいるの。私が産んだ赤ちゃんなら、絶対家族みんなで面倒見てくれるんだから……」

そこまで言って、自分に呆れてしまった。
違う、こんなこと言っちゃ駄目だ。
私は勝手なことをしようとしていた。そのことに風雅は傷ついているというのに。
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