仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
「……あ、でもいきなり子作り解禁じゃないわよ。そこはゆっくりね」
「希帆、嬉しい。大好き」

風雅が長い腕を伸ばし、絡めとるように私を抱き寄せた。
そこで私は、そういえばさっきキスなぞしてしまったわと思い出すのだけれど、精一杯平静を装い風雅の背中をバシバシ叩いた。

「ほら、お風呂行っておいで。私、その間に美芳に連絡したり、フライトの予定変えたりするから」
「うん、待ってて」

風雅の顔は見えないけれど、身体に直接響く声は穏やかな安堵に満ちていた。



その晩、風雅は私のことをぎゅうぎゅうに抱き締めて眠った。梅雨入り前の肌寒い夜、風雅の温度は温かく、私は先に眠りに落ちた風雅の頭を撫でながら考えた。

風雅を傷つけた罪悪感から、一気にこの先を決めてしまったけれど、いまだ後悔の気持ちは湧いてこない。風雅が望むなら傍にいようという決意しか浮かばない。

この感情はなんだろう。
弟に感じるみたいな親愛。ほうっておけないし、悲しい顔はさせたくない。
カリスマ性があり、天才肌の風雅は一見無敵だ。だけど、私のためには容易に心を乱す。
私のために、風雅を揺るがしたくない。
いまだお守役のつもりなのかしら。だけど、夫婦とも友人ともつかないこの関係を、大事にしていきたいと思える。

風雅の気持ちとは少しズレるかもしれないけれど、私もまた風雅が特別な存在なのだろう。風雅は風雅でなくてはならない。それを揺るがすのも守るのも私なのだ。そんな自覚をした夜だった。


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