仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
風雅が私を試すような表情になる。

「希帆が抱き締めさせてくれるならいいよ」

う、と詰まりかけて考える。ここで引いては女がすたるんじゃなかろうか。
私は力強く頷いて、答えた。

「そのくらい別にいいよ。でも、ハグ以上はしないから」

多少機嫌が直ったのか、風雅がのそのそと立ち上がる。言葉通りシャワーに向かうらしいので、タオルを持ってついていった。

「あのさ、風雅」
「なに」
「予定早めて、来週から一ヶ月、台湾に行ってこようと思うんだけど」

私はたった今決めたことを口にした。それは風雅を傷つけた反省でもあり、自分なりの覚悟でもあった。

「向こうのマンション引き払って、仕事のカタつけてくるよ。その後はふた月に一度程度行けばいいようにする。どうかな」

風雅が振り向いた。目を見開き、驚いた顔をしている。

「……それって、日本中心に暮らしてくれるってこと?」
「うん。そういうこと」

こくりと頷くと、風雅が口をへの字にした。なにやら不満そうだ。

「希帆さ、単純すぎない? 俺が不機嫌になったら、いきなり手のひら返したみたいに……」
「だって、風雅にそんな顔させたくない」

風雅がさらに目を丸くした。
私だって、自分の気持ちにちょっと驚いている。
風雅の切ない表情は想像以上に私の胸をえぐった。私の行動で悲しませるのは嫌だと思ってしまった。

「風雅のことだから、私が台湾に戻っても平気な顔で送りだしてくれると思ってた。言うほど私に執着なんかしてないだろうって。でも、違うんでしょ。風雅は私と離れて暮らすの嫌なんでしょう。風雅があそこまでがっくりするなら、私も考えを改める」
「希帆」
「日本中心に働けるようにする。風雅の傍にいる」

これははっきりとした決意。私なりの告白。
あなたとの結婚を前向きに考えている。その場しのぎにはしないという表明だ。
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