仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
風雅がぎゅうっと手を握り返してきた。うつむいた横顔は、嬉しいような困ったような顔をしていた。
ほら、笑ってばかりだから、本当に嬉しいときにそんな複雑な顔しかできないんだから。

「振られちゃうかと思った……こういう部分見られたら」
「振ってもどうせ追いかけてくるでしょ」
「そこまで俺、やばくないんだけど」
「やばいでしょ。十年以上も私なんかに執着して、私に嫌われないように一生懸命距離維持して……。風雅が私のことを好きなのは、私があなたの世界でたったひとりコントロールできない存在だから」
「そうかも」

風雅がくすっと笑って、私に身を寄せてきた。腕を引いて、風雅と向き合う。
見上げれば、背の高い彼は照れたような困ったような顔。あーあ、この顔を可愛いと思えてしまう私、重症手遅れ。
やっぱり高校時代に掴まった時点で手遅れだったのかな。
私は腕を伸ばし、風雅の胴体に巻き付けた。自分から抱きつくと、シャツ越しに風雅の体温を感じた。

「風雅、子作り解禁します」
「え……ええ!?」

風雅が驚いて、聞いたことのない音量で叫んだ。そんな彼を見上げて笑う。

「あなたの純愛に応えなきゃいけない。優雅さんに妻に相応しくないとか言われたくないしね。風雅を一番輝かせてやれるのは私だって、見せつけてやるわ。帰るわよ!」

私は風雅の手をひっぱり歩き出した。
もう会社になんか帰さない。今日は私のために時間を使ってもらおう。
本当は心臓がばくばくとすごい音をたてていた。


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