溺愛甘雨~魅惑の御曹司は清純な令嬢を愛し満たす~



目覚めた瞬間、自分が荒い息をしていることに気付いた。

夢を見ていた。
嫌な夢だった。
心臓がどきどきしている。

ほうと息を吐いて寝返りをうとうとしたら、私の身体を腕が抱きしめていることに気付いた。

逞しく熱いぬくもりを放つその腕は男の人のもので、そして自分は裸だった。
はっと完全に目を覚ました私は、すぐそばにある寝顔に見入る。

雅己さん…。

甘いときめきが胸に沸き起こる。

とても綺麗な寝顔だった。
長い睫毛とすっと伸びた鼻梁に、毅然と引き結ばれた形のいい唇。
普段は綺麗にセットしている前髪が、寝乱れて無造作に顔にかかっている様が、とても色っぽい。

初めての夜はこうして寝顔を見る機会なんてなかったけれど、今はこうして時間の許す限り眺められるのが幸せだ。

もちろん、逃げるつもりもなかった。

だって私は私の意思でこの人に抱かれたのだから。

けれども彼の腕は私の身体にしっかりと巻き付いていて、まるで逃がさないと言わんばかりだ。

もう、どこにも行きません。

と、固く閉じられた瞼に誓う。
私への愛に溢れた、あの温かな瞳に向かって。

彼を起こさないように、そっと熱い胸に額をすり寄せる。
すると、少し身じろいで、彼の腕もさらに私を強く抱き締める。

起きているのかしら…。
そう思ったけれど、呼吸は変わらず規則正しく繰り返され、頬に伝わってくる鼓動はとくとくと心地よいリズムを打つ。

蕩けるような甘い切なさを噛みしめながら、私は眠りの余韻に意識を預けた。

この想いを愛と言うのなら、間違いなくそうなのだろう。





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