溺愛甘雨~魅惑の御曹司は清純な令嬢を愛し満たす~
4,その愛は、甘雨のごとく

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『芽衣子。おまえは品のある慎み深い女性でいなければならないよ』

私を膝の上に乗せて、父はゆっくりと言い聞かせるように言った。

まるで冷水を浴びせるように、父のその固く低い声が私の背筋を凍らせる。

身体が動かない。
凍えるような寒さを覚えて肩を抱こうとした―――けれども、手が強張って動かない。まるで、凍り付いたかのように―――私の身体が固まっている…!

いや…!
怖い、お父様…!

叫ぼうとした。けれども、口が開かない。
上唇と下唇がへばりついて、膜に覆われたようになって、やがて口自体が無くなって、ブリキのようにつるりと固くなる。まるで人形のように。

いや…! 助けて、お父様…!

誰か、助けて…! 助けて!

私は人形になんて、なりたくない…!

意識すら固まっていく中、私はずっと父の顔を見つめていた。

その顔はどこか悲しげだった。

そして私を見つめ、しきりに何かを訴えていたが、ほぼ人形と化した私にその声は聞くことはできなかった。でも、

『すまない、芽衣子。私を、許してくれ…』

力なく動いていた口は、そう言っているように見えた―――。



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