クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
ご機嫌のお母様の隙をついて雅己さんが二切れめの芋羊羹をお皿に乗せた時、雅己さんのスマホが鳴った。

「げ、高田からだ」と眉をしかめる雅己さんだったけれど、お母様に睨まれて渋々出る。
高田さんの冷ややかで鋭い声が聞こえ、雅己さんは詫びをしきりに言いながら席を外した。

だ、大丈夫かな…。しかも私まで休んでしまったし…。
雅己さんの強制とはいえ、申し訳ない…。

と雅己さんの背中を心配そうに見ていたら、

「今日は、芽衣子さんにお会いできてよかったわ」

お母様の静かな声が聞こえた。

「やはり予測した通りね。素晴らしい女性だわ」

意味深なその言葉に、私はお母様の顔を見つめた。
砕けた母親像を残しつつ、その綺麗な顔には代表取締役としての風格が戻っていた。

「あの子は知らないのだけれど、実は河泉流の小早川様と私は旧知の中でね。例の扇子の件で雅己からお礼の電話が来て『必ず小早川様のご期待にそえてみせます』って言われたって喜んで言うのよ。『私の意地悪をよく見抜いてくれたわ。さすがあなたの息子さんね』って」

…やっぱり、あの扇子にはそういった意味が含まれていたんだ。

ストレートな感情表現を良しとしない日本文化。
先頭に立ってそれを守る小早川様のような人々は、ああして言葉以外の手段で感情を表現して相手の出方を伺い、また相手の質を吟味する。

若い身ながら、雅己さんは綾部ホールディングスの跡取りとして、そういう人たちと渡り合っていかなければならない。
想像以上に、大変な立場だ。
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