溺愛甘雨~魅惑の御曹司は清純な令嬢を愛し満たす~
「思えば、俺たちは似た境遇だね。惹かれたのも、それがあるのかな」

私は小さくかぶりを振った。

「私と雅己さんは似てないわ。雅己さんは自分の境遇を真っ向から受け入れている。私とは全然、違うわ…」
「そんなことないさ」

父と婚約者との重い問題を感じて、私は俯いてしまう…。
そんな私の顎に優しく触れて、雅己さんは真っ直ぐに見つめてきた。

「君だってちゃんと向き合っているじゃないか。俺は俺なりに君は君なりに、定められた境遇と立ち向かおうとしている。なんにも、変わらないよ」

そうして、雅己さんは啄むように私の唇にキスをした。
きゅんと甘く胸が締め付けられて赤くなる私に、雅己さんは微笑んだ。

「さて、甘い朝の仕切り直しといこうかな? とりあえず、腹減ったな」
「ええ? 芋羊羹、二切れも食べたのに?」
「途中で高田に邪魔されただろ」

と、力なく肩をすくめてみせる雅己さんに、私は思わず笑みをもらしてしまう。
どうやら、そうとうこっぴどく叱られたようだ。

「じゃあ、朝食をご用意しますので、雅己さんは大人しく待っていてください」
「いいね!」
「あ、芋羊羹は残しておいてくれなきゃ嫌ですよ」
「分かっているよ!」

私達には、まだ問題は残っている。
けれども今は、二人で過ごす幸せを噛み締めていよう。





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