クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
「母から、今度の日曜日の夜はどうかって」

芽衣子の顔が輝いた。

「大丈夫、その日ならたぶんクリーニングも間に合うと思うから」
「その日は夜なら俺も空いている。送迎ならできるよ」
「…ほんと? 嬉しい。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」

そう微笑む芽衣子だったけれども、そこには心なしか浮かない表情が潜んでいるように見えた。

「どうしたの? 言葉の割には表情が少し暗いようだけれど」
「そ、そう? お母様にお会いするのは楽しみだけれど、やっぱり緊張はするから」

と、はにかんでみせる芽衣子だったが、緊張だけでこんな複雑な顔つきになるはずがない。
彼女の抱える負担はもっと大きなものだから。

「新規事業と父上のことが気がかり?」

俯いて、芽衣子は「ええ…」と小さな声で言った。

婚約者である北村とのいざこざがあってからまだ数日しか経っていないが、岸議員から芽衣子へは何も連絡は来ていないようだった。もちろん、俺のところにも来ていない。

あの下衆男にもおいそれとつげぐちはしたくないというプライドがあったのか、それとも岸議員がこちらの出方を窺って沈黙をしているのか―――いずれにしても、この数日間の平穏は不気味だった。

もういい加減、動かねばならない。
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