クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
「私は父に厳しく育てられました。身だしなみ、教養、所作…ありとあらゆる教育を幼い頃から与えられました。今となっては、それには感謝しております。でも私は父の人形でした。父に嫌われないよう父の理想とする女性にならなければいけないと、囚われていました」
「……」
「けれども、いつしか私はそんな自分でいることに苦しみを覚え、心を閉ざしていきました。その時に出会ったのが雅己さんでした。私には父が決めた婚約者がいましたが、雅己さんはそれでも私を受け入れ、救おうとしてくれました。…本当に、嬉しかった。私も雅己さんしかいないと思いました。でも…」

涙が出そうになるのを耐えて、私は声を絞り出した。

「知らなかったんです…。雅己さんが全身全霊を懸けている新規事業に、父が大きく携わっていることを―――。父が決めた婚約者を拒んで雅己さんを選べば、父への反抗となります。そうなれば父はきっと、新規事業への協力をやめてしまう…雅己さんとお母様の夢が、絶たれてしまいます…」

私は深々と頭を下げた。

「でも、そうと解かっていても…私には雅己さんしかいないんです…! どうかお願いです。私と雅己さんの交際を、お認めください…!」

しばしの沈黙の後、お母様は静かに言った。

「お顔をお上げになって、芽衣子さん…。私があなたにその着物を差し上げたのは、息子があなたに帯を贈ったのは、あなたにそんなことをさせるためではありませんよ」

私はゆっくりと顔を上げた。
厳かな口調とは裏腹に、お母様の顔には、とても優しい微笑が浮かんでいた。
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