溺愛甘雨~魅惑の御曹司は清純な令嬢を愛し満たす~
「おまえの母親は、ほとんど強引に父親と結婚させられた。憎しみこそすれ、愛情など微塵も無かったに違いない」
「嘘よ…」

そう否定するものの、呟くようにしか声を出せない私は、もはや衝撃の事実を認め茫然自失としていた。

すべて合点がいった。

お父様が急に変わってしまったのは、お母様が裏切ったから。
だから笑わなくなってしまった。厳しい表情でどこか寂しそうで、傷をひた隠しにして、いつも苦しそうで…。

私を理想の女性にしようとしたのも、もう二度と裏切られないため。

愛した者から、傷付けられないためだったんだ―――。

ああ、お父様…。

私の胸は引き裂かれるように痛んだ。

父は私を愛していないわけではなかったのだ。
それどころか、唯一残された家族として、誰よりも大切にし、愛していた。
私はその父の不器用な心に気付かず、勝手に誤解して自ら距離を作っていたんだ…。

後悔と悲しみと愛しさと切なさと―――様々な感情の渦に飲まれそうになっている私に付け入るかのごとく、北村の声が悪魔のささやきのように低まった。
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