溺愛甘雨~魅惑の御曹司は清純な令嬢を愛し満たす~

3

【芽衣子side】


時が止まったかのような心地がした。

死んだと聞かされていた母が、生きている? 逃げた? 不倫相手と…?

呆然とする私の前で、北村が酷薄な笑みを浮かべていた。

「嘘よ…だってみんな、お父様も、お母様は急な事故で亡くなったって…」
「幼い君に『母親が男と逃げた』なんて言えると思うか? それにおまえの父親は名が知られた政治家だ。こんなスキャンダルが世に広まれば、政治活動にも差し障りが出る。一部の人間だけに留めておいて、事実を捏造したんだよ」
「そんな…」

信じたくない。
けれど、それが真実だったとすると、当時のお父様やお手伝さん達の様子について私が疑問に思っていたことの説明がつく。

母が死んだというのに、子供の目から見ても、周りがあまり悲しんでいるようには見えなかったこと。
母の話をすると、みんな禁忌に触れたかのように意味深な反応をしたこと。
母がいなくなって以来、お父様が変わってしまったこと―――。
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