溺愛甘雨~魅惑の御曹司は清純な令嬢を愛し満たす~
「たった一晩だけでしょう…? 黙って逃げてあなたのプライドを傷つけたのなら謝ります。…でも、あなたみたいな人は、私のようなふしだらな女なんて慣れて」
「見くびってもらっては困る」

私の言葉を遮って、彼はきっぱりと言い切った。

「確かに君から見たら俺はしょうもない男としか覚えられていないのかもしれない。でも違うんだ。朝に話すつもりだったけれど、俺にとって君はやっと―――」

その時、彼の肩越しに物品庫の扉が開くのが見えて、私は息を詰めた。
動揺が走る私の視線に気付いて彼も察したのか、私の手を離して身を引いた。

やってきたのは一緒に来ていた黒スーツの男性だった。

「専務、こちらにいましたか。そろそろお時間です」
「ああ」

少し苛立ちをにじませた声で返事した彼だったけれど、ふっと軽く吐息すると専務の態度に戻って私に言った。

「お忙しいところお邪魔して申し訳ありませんでした。―――お会いできて、よかった」

また会いに来る。

そんな意思を込めたような意味深な声色で最後の言葉を残し、彼は悠然と出て行った。

残された私は、しばらく立ち尽くしたままでいるしかなかった。





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