クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
「わぁ…綺麗…」

眼前一面に広がる煌びやかな夜景を前にして、さすがの彼女の心も動かされたようだった。

綺麗に巻いた黒髪を心地よさそうに夜風に揺らしているその横顔から、ふっと緊張が解けたような気がした。

「下品に見えるギラついたネオンの灯りも、こうして眺めると悪くないだろう?」

「本当ね」と彼女は微笑を見せた。
俺は少しずつ話をふり始める。

「ああいう所に行ったの、初めてだろ」

彼女はうなずくように俯いた。

「そして好きでもない。今にも鼓膜が割れそうなのを無理して耐えている様子だったもの。全然楽しんでないな、ってすぐに解かったよ」

押し黙る彼女は、すがるようにカクテルに口を付けた。

「何か悩みがあるなら吐き出してしまった方が楽になるよ。俺でよければ、教えてくれないかな」
「……」
「俺は君を助けた。そのくらい話してくれても、罰は当たらないと思うけどな」

なお頑なに押し黙るその横顔は、今にも泣きだしそうに強張っていた。

心をかきむしるような思いと同時に不可思議な苛立ちが芽生え始め、俺はらしくない強引な言葉を続けた。

「汚れたかったんです」

彼女は重い口を開いた。

「私は私が大嫌いだから、汚して、めちゃくちゃになりたかったんです」

でも、と言葉を切って彼女は泣き笑うように力なく微笑んだ。

「いざその機会が現れたら、怖くてその先に進めなかった」
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