溺愛甘雨~魅惑の御曹司は清純な令嬢を愛し満たす~
胸が詰まって、返答できなかった。

こんな風に必要とされることなんて初めてだったし、それに私もここで働くことが大好きだった。やりがいを感じていた。

この店は、父の操り人形だった私がやっと見つけた、自分らしく活き活き生きられる場所だ。
叶うなら、もっとここで働きたかった。

彼とのことがなければ、父に反抗してもいいから続けたかった―――。

「寂しくなるけれど、ご実家の近くにもうちは出店していると思うから、機会があったらまた活躍してね」
「はい…」

私は涙を堪えてうなずいた。
束の間だったけれども、自分の意思で生きたこと、必要としてもらえたこと、その経験は私の糧になる。
父のもとへ戻っても、もう以前のような完全な操り人形には、戻らないかもしれない…。

戻りたくない…。





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